担当医師はさまざまな検査を通じて心臓のリズムを評価した結果、ペースメーカによる治療が必要であると判断します。
ここでは、ペースメーカ治療に備え、ペーシングシステムがどのような治療法なのか、どのような医療機器なのか、また保険制度や費用について基本的な情報を取りあげます。
ペースメーカによる治療(ペーシング療法)は、基本的に電気刺激(電気エネルギー・ペーシングパルス)を心臓に伝えることによる治療法で、近代の技術革新が医学に応用された最も成功した医療分野の一つであると言われています。
このペーシング療法は、徐脈に対する唯一の(最も有効的な)治療法で、心臓のリズムを見守り、徐脈が発生したときや、活動時などの身体状況に応じ、より多くの拍動が必要なときにそれらを補うように設計されています。
ペーシング療法は、さまざまな分野における研究結果の集大成であると言われています。古くは1740年代の電気刺激による心臓収縮の観察からはじまり、1930年代の体外式ペースメーカの考案、そして植込み型ペースメーカは、1958年の人体に対する最初の1例から今日に至るまで半世紀を超える歴史を刻んでいる医療機器となっています。現在も技術革新が進みより安全で適切に医師が短時間で処置をおこなえるよう、ペースメーカは発展し続けています。
ペーシングシステムとは、電気刺激を発生させるペースメーカ本体装置(パルス発生器)と、電気刺激を心臓に伝えるための数本のリードによって構成され一式となる医療機器の総称です。
ペースメーカ本体装置は、主にチタンと呼ばれる金属で密封された非常に小さなコンピュータのようなもので、電子回路と電池で動いています。
ペースメーカの種類には、症状や体の要求に合わせた性能を備えたさまざまなものがあります。心臓のリズムのみならず、例えば、運動状態、呼吸数、心臓の電気的活動の変化などを監視して、より正常に近い心臓のリズムをつくり出すペースメーカも開発され利用されています。
また、診断（記憶）機能として、不整脈などの情報、ペースメーカやリードの情報（本体装置の設定や作動状態、電池の状況、リードの電気的完全性）など多くのことを記憶しています。そして記憶した内容をプログラマによって読み取ることができ、後の治療に役立てるための報告機能も持っています。
リードは絶縁された電線ワイヤーと電極で構成され、心臓自身の電気的な活動（電気信号）を本体装置に送り届け、また、必要に応じて電気刺激を心臓に伝えます。リードにもさまざまな種類があり、これら1つもしくは2つ以上が組み合わされて使用されます。
リードに使われている素材は、からだへの影響が少なく（生体適合性）、からだの中で化学的に安定して（生体安定性）、十分な強度があり、通電性・絶縁性が良いことなどが重要で、絶縁部分にはシリコーンやポリウレタンなど、また導線部分や電極部分には特殊な合金や白金などが使用されています。
プログラマは、体の外側から電波を通してペースメーカ本体装置と交信するための専用の装置で、記録機能（レコーダー）やモニター機能も兼ねているコンピューター化された機器です。プログラマは、ペースメーカやリードが適切に働いているかなどの確認や、その作動を調整するリモートコントローラーのような役目をします。また、本体装置のメモリーに保存された情報を取り出し確認したりするためにも用いられます。プログラマとの交信は、簡単で痛みを伴うことはありません。
心臓の異常なリズム、不整脈が現れたときは、不快感など、いつもとは違った感覚を経験するかもしれません。すべての異常なリズムに自覚症状があるわけではありません。自覚症状がある場合でも、その感じ方は人によって異なるでしょう。ペーシングシステムは、自覚症状のある、無しにかかわらず、徐脈やより多くの脈が必要となる状況を感知して電気刺激を与えます。治療に使われる電気刺激は非常に小さいエネルギーなので、一般的に何も感じることはないといわれています。
症状を感じても、ペースメーカ治療がおこなわれないこともあるかもしれません。これは個々のペーシングシステムにプログラムされた設定によっても異なります。時には運動により、息切れ、めまい、頭がくらくらしたりすることがあります。また時には、他の不整脈により症状が引き起こされることもあるかもしれませんが、ペーシングシステムではそれらに対応できない、または対応しないように設定されていることがあります。
いずれにしても症状がひどい場合や、もしくはそれが1分程度以上の間続くのであれば、直ぐに担当医師に相談しなければなりません。
ご自身の特定の病状や治療に関して十分な理解を得るためにも担当医師と話し合うことが重要です。また、ご本人のみならず、ご家族の方もペースメーカ治療について学ぶことが大切であると多くの患者さんが感じているようです。
病気やけがなどで医療機関にかかる場合、わたしたちは医療費を支払います。しかし、わたしたちが医療機関で支払っているのは、医療費の全額ではなくその一部であり、残りは公的保険制度である医療保険によって支払われています。医療保険は国民が治療を平等に受けられるよう作られた制度です。
日本では、ペースメーカ治療は保険適用となっていますが、疾患状況により適用範囲が異なります。詳しくは、担当医師におたずねください。
植込みにかかる費用としては、手術の手技料（手術技術料）と治療材料・医療機器（ペースメーカ本体装置、リード、その他）費があり、これらは原則的に保険対象となりますが、保険の種類によって自己負担額が異なります。ただし費用総額のうち、大部分は保険でまかなわれることになるでしょう（法改正により変更の可能性があります）。
詳しくは、担当医師や施設の医療関係者におたずねください。
MRI検査（磁気共鳴画像法）は、磁場と電磁波を利用して、人体の水分を含む組織を画像化する方法で、CT検査と違って放射線被ばくのないことや、脳や脊髄など骨に囲まれた部分の造影・診断に適していることにより、医療の現場に普及してきています。反面、磁場を用いているため、金属を装着している場合など、検査の適応に制限があることも事実です。
一般的なペーシングシステムは、MRI装置によって発生する磁場や電磁波による影響で、ペーシングシステムの発熱や、過剰な心臓への刺激や抑制、プログラムへの影響、リード線の位置の移動などが起こる可能性があり、また電池の消耗が進む可能性もあるため、MRI検査は原則禁忌となっています。
医療機器は、MRI検査による影響の度合いや重篤度に応じて、以下の3つに分類されます。
| MRI安全 | すべてのMR環境において危険を伴わない品目で、安全にMRI検査を行うことができます。 |
| 条件付MRI対応 | 特定の使用条件、特定のMR環境下においてMRI検査を行うことができます。 |
| MRI危険 | すべてのMR環境において危険を伴う品目で、原則MRI検査を行うことができません。 |
条件付MRI対応ペーシングシステムは、いかなるMR環境下においても危険を伴わないということではありません。また、MRI検査を受けるにあたっては、安全性が確認されている条件付MRI対応ペースメーカ本体装置と条件付MRI対応リードにより構成される、特定のペーシングシステムが植込まれている必要があります。どちらか一方もしくは安全性が確立されていない組合せでは、MRI対応ペーシングシステムとはなりません。また、体内にMRI対応でないリードが残っている場合も同様にMRI検査を受けることができません。そして、さらに、以下の条件を満たす必要がありますが、これらは各々の条件付MRI対応ペーシングシステムの種類によっても異なることがありますので詳しくは担当医師にご確認ください。
一定の条件を満たしていることが確認された場合、担当医師と患者さんの申し込みにより、製造販売業者などから条件付MRI対応カードが発行されます。MRI検査の指示を受けた際に提示することを目的としていますが、MRI検査の施行を保証するものではありません。MRI検査の可否は、担当医師にご相談ください。