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Step.3:ICDシステムのはなし
ICD治療に備えた基礎知識  

担当医師はさまざまな検査を通じて心臓のリズムや危険な不整脈によるリスクを評価した結果、ICD治療が必要であると判断します。

ここでは、ICDシステムがどのような治療法なのか、どのような医療機器なのか、また保険制度や費用について基本的な情報を取りあげます。

 ■ICDシステムとは

ICDは、体内に植え込まれて常に心臓の動きを監視し、突然おこった心室頻拍や心室細動
に対して電気刺激や電気ショックをあたえて心臓の動きを正常に戻すものです。


ICD治療の歴史

1960年代にICD治療の基礎が確立され、1970年代に動物実験を経て発展し、1980年にメリーランド州ボルティモアのジョンズホプキンス病院にて世界初の人体への植込み術がおこなわれました。日本では1990年に臨床試験が開始され、1996年に保険適用となり今日に至っています。現在も技術革新が進み、より安全で適切な治療がおこなえるよう、飛躍的に発展し続けています。

ICD開発の歴史的経緯年表

1960植込み型除細動器の概念
1969実験モデル成功
1970経静脈性カテーテルによる除細動成功
1976イヌ実験における植込み成功
1980臨床における自動除細動器(AID)の植込み成功
1982自動除細動器(AID-B,BR)にカルディオバージョン機能の開発
1985米国食品医薬品局(FDA)より植込み型自動除細動器(AICD)の承認
1986AICD植込み開始
1988〜第1世代AICDの開発
1990〜第2世代AICDの開発
1991〜第3世代ICD VVIペーシング機能、非開胸植込み
1996ICDの保険適用CRT臨床使用開始
1999〜第4世代ICD胸部植込みショックパルスに2相性パルスを適用
2000〜第5世代ICD DDDペーシング機能、SVT/AFとVTの鑑別機能進化
2001心臓再同期療法(両室ペーシング機能付ペースメーカCRT)FDA認可
2002両室ペーシング機能付植込み型除細動器(CRT-D)FDA認可
2004CRTの保険適用
2006CRT-Dの保険適用
2007遠隔モニタリングシステムの国内導入
2013MRI対応ICDの植込み開始

<注>
CRT:心臓再同期療法で、心臓の動きが正常より悪く、この心室の同期障害が加わるとさらに悪化して心不全の状態を引き起こした状態のときにペースメーカ機能を用いて心臓に伝わる電気信号の順序を整えてポンプ機能を助ける治療デバイスをいう。通称両心室ペーシングとかCRT-Pとも呼ばれている。

CRT-D:ペースメーカ機能に加え、心臓再同期療法による心不全治療機能のCRTと致死性の不整脈(心室頻拍、心室拍動)を治療するICDの機能を兼ね備えた植込み型治療機器を指す。


ICDシステム

ICDシステムは、電気刺激や電気ショックを発生させる本体と、それらを心臓に伝えるための数本のリード(電線と電極)によって構成されます。

●ICD本体
ICD本体は、チタンと呼ばれる金属で密封された非常に小さなコンピュータのようなもので、電子回路、電池、キャパシタなどで構成されています。ICDには、対象となる疾患に合わせて、いくつかの種類があります。またICDは、観察された不整脈の情報、電池の使用状況、本体の設定や作動内容など、多くの情報を記憶しています。この情報はプログラマと呼ばれる外部装置で読み取ることができ、治療に役立てられています。

●リード(ICDリードとペーシングリード)
リードは絶縁された電線と電極で構成され、心臓の電気的な活動を読み取って本体に
送ったり、必要に応じて電気刺激や電気ショックを心臓へと送ります。リードにはさまざまな構造があり、1つもしくは2つ以上が組み合わされて使用されます。ICDリードには心臓に電気ショックを送り出すためのコイル状電極がついており、心臓の内側に挿入するものと、心臓の外側に装着するものがあります。

●プログラマ
プログラマは、体の外側からICD本体と交信するための専用の装置です。プログラマは、ICDの設定や作動状況、観察された不整脈の情報や電池の情報・リードの状態などを確認することができます。プログラマとICDとの交信は電波によっておこなわれます。

■ICD治療

 

治療はどのように感じるか

心臓の異常なリズムが現れたとき、不快感などの自覚症状を呈することがありますが、自覚症状がある場合でも、その感じ方は人によって異なります。ICDシステムは、自覚症状にかかわらず、不整脈を感知して、必要に応じて治療をおこないます。ICDシステムによる治療がおこなわれた場合、その自覚症状の有無と感じ方は人によってさまざまです。

●抗頻拍ペーシング
ICDが心室頻拍を検出した際は、心室頻拍よりも少し速いリズムで電気刺激を送ることで正常なリズムに戻します。電気刺激がおこなわれていても全く感じない、あるいは少し胸がドキドキするような感覚があるかもしれませんが、多くの場合、この治療中に苦痛を感じることはありません。

●カルディオバージョン
抗頻拍ペーシングで心室頻拍の停止ができなかった際には、発作を止めるために安全なタイミングで電気ショックをおこないます。まず弱いエネルギーで治療をおこない、それでも止まらないときにもう少し強いエネルギーを出すというプログラムを組むこともできます。カルディオバージョンは、抗頻拍ペーシングの刺激より強く、「不意に胸を叩かれたような」軽度の(鈍い)不快感があります。

●除細動(ディフィブリレーション)
ICDが「非常に速い心室頻拍、または心室細動がおこった」と認識した際には、カルディオバージョンより、さらに強いエネルギーで治療をおこないます。非常に速い心室頻拍、または心室細動が始まると、その直後に意識を消失する場合も少なくありません。そのため、治療がおこなわれたことに気付かないこともあります。意識がある時にショックが与えられると、「胸を蹴られたような」不快感を伴い、びっくりされることもありますが、衝撃は一瞬で終わります。

治療と症状

動悸などの自覚症状の原因が、必ずしもICD治療の対象となる不整脈とは限りません。そのため、自覚症状があっても治療がおこなわれるかどうかは、不整脈の種類とICDの設定によって異なります。症状がひどい場合は、すぐに受診し、担当医師に相談してください。

日本の医療保険制度上のICD保険適用

病気やけがなどで医療機関にかかる場合、わたしたちは医療費を支払います。しかし、わたしたちが医療機関で支払っているのは、医療費の全額ではなくその一部であり、残りは公的保険制度である医療保険によって支払われています。日本では、ICD治療は保険適用となっています。詳しくは、施設の担当窓口や担当医師におたずねください。

施設認定制度

ICD植込み手術は、どの医療機関でも受けられるわけではありません。一定の条件を満たして厚生労働省による認定を取得した医療機関でのみ受けることができます。

手術にかかる費用

植込みにかかる費用としては、手術の手技料(手術技術料)と医療材料(医療機器:ICD本体、ICDリード、その他)費があり、これらは原則的に保険対象となります。そのほか、入院にかかる費用もありますので、詳しくは、施設の担当窓口や担当医師におたずねください。

■条件付MRI対応ICDについて

 

MRIとは

MRI検査(磁気共鳴画像法)は、強力な磁場を利用して、人体の水分を含む組織を画像化する方法で、CT検査と違って放射線被ばくのないことや、脳や脊髄など骨に囲まれた部分の造影・診断に適していることによって、医療の現場に普及してきています。磁場を用いているため、金属を装着している場合など、検査の適応に制限があることもあります。


MRI検査とICDシステムへの影響

一般的なICDシステムは、MRI装置によって発生する強力な磁場による影響で、ICDシステムの発熱や、過剰な心臓への刺激やペーシング治療の抑制、プログラムへの影響、リード線の位置の移動などがおこる可能性があり、また電池の消耗が進む可能性もあるため、
MRI検査は禁忌となっています。

条件付MRI対応とは(MR適合性に関する表示)

医療機器は、MRI検査による影響の度合いや重篤度に応じて、以下の3つに分類されます。

●MRI対応:
すべてのMR環境において危険を伴わない品目で、安全にMRI検査をおこなうことができます。

●条件付MRI対応:
特定の使用条件、特定のMR環境下においてMRI検査をおこなうことができます。

●MRI禁忌:
すべてのMR環境において危険を伴う品目で、MRI検査をおこなうことができません。

条件付MRI対応ICDシステムとMRI検査を受けるための条件

条件付MRI対応ICDシステムは、いかなるMR環境下においても危険を伴わないということではありません。また、MRI検査を受けるにあたっては、ICD本体とリードの両方が条件付MRI対応の製品である必要があります。また、植込み部位やMRIの撮像条件によっても、検査を受けられないことがあります。詳しくは担当医師にご確認ください。

・条件付MRI対応ICD本体装置もしくは条件付MRI対応リード植込み後、特定(一定)の期間が経過していること。
・条件付MRI対応ICD本体装置が指定された部位に装着されていること。
・条件付MRI対応リードが損傷している疑いがないこと。
・MRI装置および撮像が条件を満たしていること。
・MRI検査を受ける施設が条件(関連学会による施設基準)を満たしていること。
・患者さんご自身が、MRI検査を受けるためのその他の諸条件を満たしていること。

条件付MRI対応カード

一定の条件を満たしていることが確認された場合、担当医師と患者さんの申し込みによって、製造販売業者から条件付MRI対応カードが発行されます。MRI検査の指示を受けた際に条件付MRI対応製品であることを示すもので、MRI検査の施行を保証するものではありません。MRI検査の可否は、担当医師にご相談ください。

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